陸電(おそらく6600V)
横須賀基地の桟橋に備え付けられてる給電端子盤。
レーダーをはじめ各種電子機器など船特有のものから、照明やテレビ、調理器具などの家電類まで、船も人が生活する空間である以上電気が必要になります。
その電気をまかなうため発電機を積んでるわけですが、人と同じで機械も長時間休まず動かせば壊れます、できれば港にいる間ぐらいは休ませて整備もしたい、それに燃料代も馬鹿になりません。
というわけで軍艦のような大型の船舶の多くは港にいる間、陸から電力を供給してもらっています。
それでこの給電端子盤から電線を艦に引って電気をもらうわけですが、この日は一般人が多数来艦する中での不用意な事故を避けるためか陸からの給電はされていませんでした。
その代わり艦内の発電機(多分ディーゼル)が動いてましたが……
発電機の吸気口って使わないときはふた閉めるんですね、知らなかったですよ。
しらせ最期の公開
しらせ最期のお披露目は晴天に恵まれた日曜日でした。
絶好の行楽日和だったせいか私のようなオタクだけではなく家族連れも結構いらっしゃってました。
まあ大半はお父さんか息子さんが趣味者でお母さんは引きずられてというような感じでしたが、中にはごついカメラを振りかざし家族そっちのけで対岸*1のフィッツジェラルド*2を撮りまくっていた猛者なお母さんも見受けられました。
さて、そんな家族連れの中に一人の少女がおりました。
場違いともいえるピンクのエプロンドレスを身にまとったその愛らしい少女は真剣なまなざしで説明役の自衛官に問いただしました。
「ペンギンに会えましたか?」
その少女の問に対して、純白の第3種夏服を隙なく着こなした偉丈夫はさわやかな微笑を絶やすことなく、ペンギンに会えたこと、現在南極にいる人間はペンギンに危害を加えていないこと、ペンギンもそのこと理解しており人間が近づいても逃げないことなど、海軍士官の鏡といえる真摯な態度で丁寧に答えていました。
実にほほえましい情景でした。
この情景を前にすれば、この艦の名に縁のある某中尉殿が率いた南極探検隊が極寒の地で性欲を処理するためペンギンを鳥姦していたなどという史実はどうでもいい事と言えましょう。
フィクションはフィクションとして楽しみましょう。
なにやら色々ともめていた「坂の上の雲」のドラマ化ですが、最近は撮影のほうも順調なようで、ちらほらと流れてる番宣など見ていると、なかなかの力作のようでいまから放映が楽しみです。
ただ気がかりなのは、できの良い歴史物が作られると決まって現れる歴史とおとぎ話の区別ができないかわいそうな人たちの存在です。
やれ乃木希典は無能*1だの森鴎外は藪医者*2だのとフィクションを真に受けて反論できない故人を一方的に弾劾する、そんな人たちがまた増えるのかと思うと憂鬱になります。
できの良い歴史物はとかく罪作りなものですが、だからと言ってそれを理由に作品や作者を非難するのはお門違いです。
ましてや40年前に出された小説を、その後見つかった史料を元にあげつらうなどは大人気ない行為といえましょう。
ですが今回は敢てそのみっともない突っ込みをしてみようと思います。お題は「丁字戦法」です。
さて小笠原長生という軍人がいました。
日露戦争時には大本営海軍部参謀という要職に居た人物ですが、軍人としてよりも日清、日露戦争の公刊戦史の編纂において中心的な役割を務めた他、恵まれた文才を使い多くの著作を残した戦史オタクとして知られる人物です。*3
戦前、戦後しばらくの間まで世間に広がっていた日露戦争における海軍のイメージは彼が作ったものといっても過言ではなく、「坂の上の雲」も彼の史観の影響を受けてます。
ちなみに「坂の上の雲」の作中では、丁字戦法誕生のきっかけとなる村上水軍の兵法書を秋山真之に渡した人物として登場しています。
そんな小笠原長生の史観に疑問符が付いたのは幻の史料といわれていた「極秘明治三十七八年海戦史」*4が見つかったのがきっかけでした。
この史料に書かれていた日本海海戦の姿が世間に流布していた日本海海戦のイメージとかけ離れていたため、やれ丁字戦法は無かっただの、*5公刊戦史はすごい秘密兵器*6の存在を隠すために海軍ぐるみででっち上げた防諜工作だのと言う人まで出る始末。
そんなこんなで小笠原の言うことはどうも当てにならないという風潮になりました。
そして時を同じくしてクローズアップされるようになったのが山屋他人*7の存在です。
「坂の上の雲」では秋山が海軍大学で初めて戦術の講義を行ったということになっていますが、実際は山屋が秋山より先に講義を行っており、*8この講義をまとめた「海軍戦術講義録」に記載されいる円戦術こそが丁字戦法の原型だったという話が流布するようになりました。
また同時期、米英でも丁字戦法似た戦術の研究がされていたことが知れるようになり、村上水軍がどうのという小笠原の話は信用されなくなりました。
かつて「稀代の大天才が日本古来の兵法を元に生み出した新戦術」と言われていた丁字戦法も、今では「海軍大学で研究されていたものに海外の流行を取り入れ発展改良した戦術」といった感じに定着しつつあります。
まあ、お話としてはどちらが面白いかなんてのは言うまでも無いんですが、事実なんてのは地味なものです。
ただこの件に関して「坂の上の雲」に少し気になる記述があります。
海軍戦術についての日本人の著作物は、山屋他人の書いた簡単なもの以外は一冊もない。
第二部、十七夜より
海軍戦術を最初にひらいた山屋他人
第六部、運命の海より
山屋の「海軍戦術講義録」をご存知で、戦術を最初にひらいたのは秋山じゃなくて山屋ですか?
ひょっとして先生、真実を知りながらホラ吹きやがりましたか?
*1:乃木希典については近年まともな評価もされるようになりましたが、いまだに司馬史観の影響は根強い。
*2:麦飯の件は医学だけではなく兵站の問題とも深く絡む話であり医者一人の主義主張だけで片付けられるような単純な話ではない。それはともかく麦飯がどうとか言ってる人は麦飯でビタミンを得るということがどういうことなのか一度試してみるといいですよ。腹壊しても知りませんけどね。
*3:特に東郷元帥を神格化した第一の功労者あるいはA級戦犯といわれています。
*4:一般に公表されていた公刊戦史と違い、軍内部での研究目的のために作られた極秘史料。「坂の上の雲」が書かれた当時は研究者の間ではその存在は知られていたものの、その現存は絶望視されていた幻の史料でした。そんな幻の史料があることを司馬先生はご存知でその在り処を探していたそうです。しかもごく一部とはいえ写しを手に入れていたとか、本当にすごい人ですね。ちなみに今ではネットで閲覧できたりします。便利になったものです。
*5:呉市海事歴史科学館館長、戸高一成を中心に唱えられてる説。個人的には従来のイメージとは違うが丁字戦法(というか乙字戦法)はあったに一票入れときます。
*6:一号機雷のこと。
*7:海兵12期、日本海海戦時は二等巡洋艦「笠置」の艦長で後に連合艦隊司令長官も勤めた人物です。
*8:でも山屋が最初というわけでもありません。
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歴史教育問題なんかで時たま出てくる『皇国史観』
国の都合で作られた偽史ともいえる存在でありながら、従来は歴史家個人の思想を軸にして語られることの多かったこの史観を文部省という行政機関を軸にして、それがどのように生み出され普及したかを紐解き、戦後どのように解釈され批評されたか見つめなおした力作です。
http://q.hatena.ne.jp/1132969838
http://q.hatena.ne.jp/1148408210
以前、こんな質問があった時に少し考えたんですが、戦後冷戦期、民族自決と共産主義が徒党を組んで暴れまっくている時代に大日本帝国は多数の民族を一つにまとめる事ができるだろうか?
八紘一宇という空虚な思想でこれら一大ムーブメントを巻き起こした思想たちに太刀打ちできるだろうか?と
……まあ無理だっただろうなぁ。
幕末に混乱していた日本を一つにまとめる為にかつがれた天皇というある種の宗教性を持つ君主の存在は、多民族国家となった大日本帝国をまともに運営していくには致命的な障害になりかねないほど厄介な存在だったことを改めて思い知らされた一冊でした。